対談・座談会

◆昨今の企業不祥事、コーポレートガバナンスの潮流を踏まえた、監査役等と協会の在り方について(日本監査役協会正副会長座談会)

2018年2月23日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。以下に一部を抜粋してご紹介いたします。速記録全文につきましては、『月刊監査役』2018年5月号(No.682)をご覧ください。

[出席者]<公益社団法人日本監査役協会>
会 長 岡田 譲治(三井物産株式会社 常勤監査役)
副会長 玉井 孝明(東京海上ホールディングス株式会社 常勤監査役)
副会長 黒川  康(JFEスチール株式会社 監査役)
副会長 藤井 秀則(東海旅客鉄道株式会社 常勤監査役)
副会長 安原 裕文(パナソニック株式会社 常任監査役)
副会長 中村 豊明(株式会社日立製作所 取締役監査委員)
[司 会] 専務理事 永田 雅仁



昨今の企業不祥事について

永田:経営層と現場の意識の乖離による企業不祥事について、どのようにお考えになるか、まずは製造業のお会社の方よりお話をしていただきたいと思います。
黒川:監査役等の役割と言うと話は難しくなりますが、まず、現場と経営層の意識の乖離は常にある問題かと思います。当社では、社長は製鉄所にも頻繁に足を運び、現場の隅々までよくわかっているという状態にありますが、ややもすると現場と経営層との間で意識が乖離してしまう部分はあると思います。最近、同業他社で品質に関する不祥事が発生しましたが、その会社のように様々な業種で幅広く展開していると、どこかの分野の出身者が社長となり、全ての事業について精通することは難しくなってしまいます。その中で、タコツボ化してしまうのはやむを得ないため、社長が見ることができない分野は監査役等が見るしかないと思います。
当社グループはホールディングス体制であり、事業会社の社長はその事業に特化して見ることができ、私は現在鉄鋼事業会社の監査役ですので、まだやりやすさはあると思います。その中で、経営層がどういうふうに現場を見ているかを監査役が把握することが重要だと思います。
当社グループは、ホールディングスの下に、鉄鋼事業会社とエンジニアリング事業会社、鉄鋼中心の商社があり、それぞれの業態にそれぞれのトップがおり、ホールディングスは簡易な組織です。ホールディングスでは、株主総会対応とファイナンスにほとんど従事していますので、事業の実態は各事業会社で見ています。
私はホールディングスの監査役を4年間務めましたが、やはりどこか隔靴掻痒なところがあり、各社に監査役がいるため、ホールディングスの監査役は実態になかなか手が伸ばせない、間接的に見ているという状態でした。
玉井:当社もホールディングス体制を採用しており、グループ内には国内外の保険事業以外にも様々な業種があります。当社のグループ会社における監査役監査は、書類等による監視・検証に加え、海外子会社については、主に常勤監査役による往査で対応し、また国内子会社については、ホールディングスの常勤監査役が子会社の非常勤監査役を兼ねることで対応しています。私も国内子会社7社の非常勤監査役を務めています。また、国内子会社では、その規模や重要性等に応じて、監査役会や常勤監査役を設置しています。グループの監査役監査全体は、ホールディングスの常勤監査役が束ねていますが、この一環でグループ会社の常勤監査役の会合を年2回開催し、毎年の重点監査項目や監査関連情報等を共有しています。
中村:当社では、社長から「損得より善悪」だとよく言われていますし、それとは別に、コンプライアンス担当からも個別に指導していますので、社長は、コンプライアンスに失敗すると会社が潰れるということを社員全てが認識しているものと期待しています。一方、各事業ラインで予算策定の際に、従業員に対して、コンプライアンスを守った上で目標を達成するように直接言わなければ、従業員本人からすれば、自分の業績を評価するのは直属上長であるため、優先順位がぐらついてしまう可能性があります。そのような状況がコンプライアンス違反の温床になりかねませんので、当社では、上長が部下である従業員に数値目標等について指示する際には、コンプライアンスを前提に目標を達成するよう、明確に、面談を通じて直截に伝えるよう指導しています。
岡田:従業員が受身であるのは否めないと思います。それは、コンプライアンス担当の管理部門から指示されてやらされているという意識です。社長が自らコンプライアンスの重要性を説き、従業員それぞれが能動的に行うものという認識を浸透させなくてはいけません。言われなければやらない、ではいけないのです。
藤井:中間管理層が、直属の上司の目標管理ばかりではなく、コンプライアンスや社外のレピュテーション、ガバナンスに至るまで、しっかりと判断し、目を配れるよう、教育していかなくてはならないと思います。
中間管理層については、コンプライアンスやガバナンスへの対応力にまで踏み込んで研修を行っている会社はまだ多くはないと思います。
中間管理層の中で、次のステップに行くための研修を受けた一定以上の層では、理解がある程度進んでいる状況にあると思います。ただ、そうではない大半の管理者には意識が浸透していないという現状があると思います。
また、現在の日本企業では、現場の人間が、ある程度の年齢を重ねた層と、若年の層とで大きくそれぞれ塊になっており、両者をつなぐ、年齢で言えば40歳代の中間層が薄いという問題があります。その意味でも管理者を目指す若年層の教育は重要です。
中村:製造業では、失われた20年の影響もあって、課長となるくらいの中間層が少ないのが現状ですね。
藤井:このような状況では、よく世代間の技術の伝承が重要と言われるように、不祥事の原因としては、設備の老朽化等による問題というより人の問題の方が多いと思います。
安原:中間層の谷間という現象は深刻だと思います。50~60代の世代の後は、その巨大な層の下で、不祥事発生やその対応も含めた経営全般を実体験する機会を十分持てなかった世代に交代せざるを得ません。戦略の立案といった能力とは別に、これを担う組織内外の人間の行動への想像力という意味で、全体として感度が落ちてゆくのではないかと危惧しています。
また比較的規模の大きい会社では、買収等で事業ポートフォリオが多岐にわたってくるにつれ、グループのトップ経営陣がその知見のない事業子会社の持つリスクへの感度が脆弱になっていくようにも思います。
永田:それでは、その中で監査役等がやるべきこととは何でしょうか。
藤井:中間層を管理していくためには教育が重要だと言いましたが、それとともに、監査役等が問題点を経営のトップに伝える、すなわち現場にしっかり足を運び、問題意識を共有し、経営層に働きかけていくことが重要です。極論すれば、「監査役等は現場とともにある」というボトムアップのスタンスが大切なのです。トップは現場全てを見て回ることはできません。
昨今、現場は、自社だけではなく、取引会社、協力会社、下請会社等、様々な人が渾然一体となって働いており、何か問題が起きても責任の所在がはっきりとしない状況です。その中で、現場の課題を踏まえて、経営への橋渡しができる中間管理層がいないということを感じています。現場の実態を踏まえた上で、社内に広く伝えていくことが監査役等の仕事だと思います。
玉井:現実には、監査役等が不祥事を個別具体的に発見するのは正直なところ非常に難しいと思います。しかし、往査に行った際などに、その職場の雰囲気を味わい、現場の担当者と話をしてみれば、言葉の端々などから、彼らが職場のコンプライアンスやガバナンスの実態をどう考えているかなど、肌身で感じることができると思います。そして、ここは少し変だな、と思ったことを深掘りすることになります。
藤井:往査時に現場の管理者層、特に現場の長を見ていると、長の目線がどこを向いているかで現場の雰囲気は大きく変わると思います。そこに監査役等は働きかけていく必要があります。現場の長とガバナンス等の問題点について共有して、それが例えば予算に関する事項であれば本社に働きかけ、社員教育に関する内容であれば研修機関に働きかけていくという、つなぎ役としての役割を監査役等は果たしていくのだと思います。
岡田:何かあったときに内部通報が明確に寄せられれば分かりやすいのですが、そうではなく、単に現場の雰囲気がおかしい、長の意識がおかしいというときには、監査役等としては、内部監査部門に調査を依頼し、その調査内容を共有してもらい、必要に応じてコンプライアンス担当とも連携して不正を未然に防ぐような対応をする必要もあると思います。

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