監査役インタビュー

2022年9月
オムロン株式会社 常勤監査役 玉置 秀司さん

テーマ:
監査役就任1年目を振り返って
―新任監査役等の皆様へのメッセージも込めて―

多くの会員会社におかれましては、6月の株主総会にて、新たに監査役・監査委員・監査等委員・監事の方々が就任されたことと存じます。本号では、就任2年目を迎えられた先輩監査役として、オムロン株式会社 常勤監査役である玉置秀司様にインタビューを行い、新任監査役等の方々に向けて、就任1年目を振り返る形で御経験談を御披露いただくとともに、メッセージを頂戴しました。

  • ※こちらでは、インタビューの一部をご紹介いたします。
  • ※全文は月刊監査役739号(2022年9月号)に掲載しております。

1年間の監査活動について

―1年間監査役として職務に携わってきた御感想をお願いします。
 監査役は、社長や取締役、事業部門の責任者など、誰とでも話すことができます。また、依頼すればどのような情報でも提供してもらえます。万能な存在だと実感する一方、強力な権限を持って、企業価値の向上に貢献できるかどうかは、自身の心構えと行動に懸かっています。例えば、監査役会や取締役会でどれだけ
発言ができるか、これも心構えと行動の一つの表れだと考えています。
 私はこのように心構えや、心のよりどころが欲しいと感じていました。そのような中、日本監査役協会の「監査役監査基準」(以下、「基準」という。)を読んでいて、イメージできたことがあります。基準の中で、監査役の職責として「能動的・積極的な意見の表明に努める。」と書かれていた点です1)。また、コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」という。)にも、監査役は「自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し」意見を述べるべきだと書いてあります2)。いろいろ考えましたが、結局ここが重要なのだと思いました。当社のコーポレート・ガバナンスポリシーは、適法性監査とともに、妥当性監査を行うことも明記しています。ステークホルダーを強く意識しながら、能動的・積極的に意見を表明することは、妥当性監査のあり方とも言えます。
 監査役会の運営については、常勤監査役二人で議論する中で自分の役割も考えました。この点についても、基準とCGコードにヒントがありました。基準には、「常勤監査役は、常勤者としての特性を踏まえ、(中略)社内の情報収集に積極的に努め、(中略)他の監査役と共有するよう努める」べきであり、「社外監査役は、(中略)客観的に監査意見を表明する」と書かれています。またCGコードでは、「社外監査役に由来する強固な独立性と、常勤監査役が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである」とあります。ここがポイントで、常勤監査役の役割は、社外監査役にいかに的確な情報を提供できるのか、ヒントはそこにあると。これで気持ちが楽になりました。以来、これを意識して監査役会の運営をしてきました。
 取締役会に臨むに当たり、発言することにかなり勇気がいるなと思いました。しかし、社外監査役に情報を提供し、それを意見形成に役立てていただけるのなら、社外取締役に対しても同じことなのではないか。常勤監査役二人での議論を通じて、そう考えるようになりました。取締役会では、常勤監査役二人とも、社外取締役にも参考になる情報を提供しようと、意識して発言することを心掛けています。今年の事業報告に、当社取締役会の実効性評価の結果が記載されています。その中で、常勤監査役視点での発言が増加しているとのポジティブな評価をいただきました。

―そのほかにお気付きの点はありましたか。
 監査とは何なのか、この点について、監査(監査役)と監督(取締役)の違いが特に気になっていました。意思決定は取締役が行う一方、監査役には情報収集のための法的に強力な権限があるという違いはあります。しかし最終的には、「情報を収集し、評価して、意見を述べる」という点では、監査も監督も本質的に同じではないかと思うようになりました。後日、基準に、「監査役は(中略)会社の監督機能の一翼を担い」と書いてあることに気付きました。監査は監督の一つであると。私が求めていたのはこれだと思いました。
 また、いろいろ考えている中、ある資料を他の監査役から紹介していただき、目から鱗でした。2019年に金融庁が公表した、「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」です6)。その中では、内部監査を「第一段階(Ver.1.0):事務不備監査」、「第二段階(Ver.2.0):リスクベース監査」、「第三段階(Ver.3.0):経営監査」の三つに分類しています。それを参考にして、「監査1.0」、「監査2.0」、「監査3.0」を考え、監査役全員で、自分たちの活動に当てはめ、議論しました。
 「監査1.0」とは、一般的な監査のイメージでしょうか。「監査2.0」とは、リスクを念頭に内部統制やPDCAの改善に取り組む感じです。例えば、現場でルールがしっかりと守られていないという不備・問題があれば、現場のマネージャーの理解が不十分だから教育や研修が大事だ、と意見を述べるイメージです。しかし、問題の奥には、組織風土など、根本的な原因が存在する場合もあります。これは企業経営そのものに根差す問題で、対応は簡単ではありません。それに取り組むのが、「監査3.0」だと思います。高度1メートルから見るのが「監査1.0」、高度10メートルが「監査2.0」、高度100メートルが「監査3.0」、そう例えることができるかもしれません。
 このような整理の下、内部監査との役割分担についても、監査役の間で議論しました。内部監査による「監査1.0」と「監査2.0」の結果を理解した上で、「監査3.0」の部分で監査役は特に意見を述べる必要がある。そういった話になりました。基準にも、「経営全般の見地から経営課題についての認識を深め、経営状況の推移と企業をめぐる環境の変化を把握し、能動的・積極的に意見を表明するよう努める。」と書いてあります。この部分が「監査3.0」だと思っています。「監査1.0」も重要ですが、そこにとどまることなく、「監査2.0」、「監査3.0」へと進化させていくことに、私はやりがいを感じます。
 ちなみに、「監査3.0」では、監査役が経営課題という仮説を立てて、それを取締役会、監査役会、執行部門との間で議論することが大切だと思っています。企業を取り巻く外部環境はますます不確実となり、先を見通すことが難しくなっています。答えがない中で企業経営は、もっと柔軟に、アジャイルでやっていこう、とも言われます。そういった考え方の一つに「OODAループ(Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:行動)」があります。まず、観察から始め、その後、意思決定・実行と続きます。「監査3.0」は、正に、この観察に当たると思います。ちなみに、「監査2.0」はPDCAに沿って考えますので、意思決定(P)・実行(D)の後にチェック(C)を行います。「監査3.0」では、監査役は、より能動的になる必要があります。先ほど、監査役のイメージを動画だと述べましたが、この動画の動きが速くなるとも感じています。

―では、創意工夫した点は何かありましたか。
 取締役や事業部門の責任者にヒアリングをすると、準備万端で臨んでこようとしている方も少なくありません。しかし、それでは経営課題という仮説の手掛かりを見つけることが難しくなります。そのため、「監査3.0」では、「準備をしなくていいです。一緒にフリーに議論をしましょう。」と社内では呼び掛けています。
 監査役会の運営では、審議の効率・効果を高め、時間をできるだけ多く議論に割けるように取り組みました。実は、「監査3.0」という考え方もそういった議論の中で形成されたものです。監査役会では、限られた時間の中で取り扱う議案が多く、どうしても常勤監査役からの説明が中心になりがちでした。社外監査役からは、「もっと議論に時間をかけたほうが良いのでは」との意見も出ていました。そこで、議論するために時間を増やすことを監査役会で提案しました。社外監査役の意見は、「議論をするのは良いが、監査役会運営の効率と効果、質を見直すことも重要だ」というものでした。限られた時間という資源の中で、いかに価値を生み出すか、考えが足りなかったと思います。現在、監査役会の審議はできるだけメリハリを付けるように心掛けています。例えば、常勤監査役がオブザーバーとして参加している執行会議(経営会議体)の各議案について、監査役会では、従来は一通り説明していました。それをやめ、常勤監査役は説明する内容を絞り、絞ったところで議論しようとしています。今年の有価証券報告書では、監査役会の自己評価と課題も載せました。自己評価では、「監査役会審議の運営効率化と、監査役間の議論時間の充実をはかることで、社内・社外監査役が多面的な意見交換のできる環境整備に努めた。」としています。
 最後に、これは小さなことですが、最近読んだアメリカの本にとても心に響く言葉がありました。「良い質問には、質問者に謙虚さと好奇心が必要」という趣旨のものです。監査役はいろいろな方の話を聞かなければなりませんが、聞くことは難しいと感じています。

―期末監査、株主総会を終え、この1年間を振り返っての御感想をお聞かせください。
 監査役となって、いろいろな方と接することで、多様性の視点が大切だと思うようになりました。不確実で答えがない時代では、それはますます重要ですから、社内で発言する際は、あえて違う切り口で意見を述べることも意識しています。
 それから、社外役員の方から教わった「物事には光と陰がある」という言葉も監査役として大切にしています。例えば、会社の業績が伸びると、そこにコンプライアンスのリスクが生じかねません。物事には常に表と裏、光と陰があるものです。ともすれば、監査は陰の部分を指摘することだと思われていないか気になります。しかし、考えてみれば、光があるから陰ができます。物に強い光を当てると、陰も濃くなります。しかし、光の当て方次第で陰の長さは変わります。経営でも、光の強さを変えずに陰を短くできないものかと思います。さらに、「光陰矢のごとし」という言葉がありますが、これもやはり光と陰ですよね。ちなみに、現場に監査で訪問した際に、この話をするようにしています。陰だけでなく光も見ていることを伝えると、好意的に受け止められることが多いですね。
 先に、「監査3.0」では経営課題を仮説で示すと言いましたが、その際、データが重要になります。仮説が思い付きと思われたら、社内でうまく受け入れてもらえません。そこでデータで裏付けを取るわけです。データは経営数値といったものに限られません。例えば、内部監査部門が過去に作成した幾つもの監査報告書などもデータとしてずらりと並べてみると、この地域や事業ではこういう共通点がある、といったことも見えてきます。データ活用の仕方も意識している点です。

―ありがとうございました。

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