対談・座談会

◆協会活動と近時の企業を取り巻く動向―リスクマネジメント、非財務情報の開示の拡充、多様性の高まりに触れて―(日本監査役協会正副会長座談会)

2024年2月14日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。以下に一部を抜粋してご紹介いたします。速記録全文につきましては、『月刊監査役』2024年4月号(No.761)をご覧ください。

[出席者]<公益社団法人日本監査役協会>
会 長 塩谷 公朗(三井物産株式会社 常勤監査役)
副会長 玉置 秀司(オムロン株式会社 常勤監査役)
副会長 山田 龍彦(東海旅客鉄道株式会社 常勤監査役)
副会長 長嶋 由紀子(株式会社リクルートホールディングス 常勤監査役)
副会長 吉光  透(アステラス製薬株式会社 取締役監査等委員)
[司 会] 専務理事 後藤 敏文


非財務情報の開示の拡充と監査役等の役割
後藤:非財務情報(人的資本管理、サステナビリティ等)の開示の拡充について、監査役等としてどのように対応されているかお聞きしたいと思います。
昨年11月には、監査等委員会実務委員会から「企業のサステナビリティへの取組み及び監査等委員会の関与の在り方〈人的資本編〉」をテーマとした報告書が公表されています。本報告書では、人的資本管理とサステナビリティへの取組と監査に関して、アンケート調査を実施しています。こうした実態も踏まえ、監査役等としての対応を御紹介ください。
長嶋:非財務情報の開示については、2024年度から適用のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応情報等、執行サイドの中で何をどこまで開示するかのバランスの議論になる企業が大多数だと思いますが、そのバランスが上手く取られているのかどうかを監査役会として確認していくことが重要です。自分たちのフォーカスポイントをどのように決めるのか、例えば、ステークホルダーに対する優先順位の置き方はどうか、コストとのバランスはどうかという観点など確認しています。
吉光:当社では、今年度はサステナビリティ関連の開示体制を監査等委員会の重点監査項目に設定しました。これまでも類似の事項を重点監査項目として挙げていたのですが、どの点にフォーカスするかが定まっておらず、監査面談においても話を聞く部門や地域によって感度が異なるというジレンマを抱えていましたので、監査等委員会として、開示の準備体制をしっかりと見ていく必要があると議論し、改めて重点監査項目に設定して取り組んでいます。
第三者保証の観点では、当社では現時点で、一部のデータについて第三者から限定的保証を受けています。一般的に第三者保証を依頼する際、会計監査人である監査法人、会計監査人ではない監査法人、あるいは環境コンサル系の会社等といった選択肢があると思いますが、それぞれのメリットや生じ得る制約を考慮しながら、今後どの選択肢を選ぶか検討している段階です。
監査等委員会とサステナビリティ管掌部門との関係という観点では、先述のとおり監査等委員会当日に執行側と様々な意見交換を行っていますが、その中で、開示方針策定、プロセスの整備及び全体管理の状況について説明を受けディスカッションを行っています。また、内部監査部門とは、彼らが行った監査の結果と我々が把握している情報を踏まえて連携を取っています。
山田:当社の場合、鉄道事業が正にサステナブルな事業そのものであり、これまでは開示について社内での意識がそれほど高くなかったのが実情ですが、監査役会として、開示は社会からの信頼を深めるための経営活動そのものであると認識し、重点監査項目の一つに加え確認していくべきであると考えています。
非財務情報の開示の観点では、近時自然災害が激甚化していることを重く受け止めており、この点に対する社外取締役からの指摘について、取締役会で議論されている内容と、今後どのように取組が進められていくのかを今年度の監査ポイントとしています。
当社の場合は、激甚化する自然災害が与える影響について、経営数値への影響も重要ですが、社会からの期待を考えると安全への影響の方が重要です。監査役会として、その点に対する設備投資の状況やお客様の安全を確保するための対策・訓練がしっかりと取られているかを確認していますし、そうした取組を積極的に開示してPRすることに意義があると考えています。
また、非財務情報の開示の保証は、会計監査人とのコミュニケーションの良い端緒になるのではないかと考えています。会計監査の世界は専門的で、監査役等との連携と言ってもまだ十分な議論になっていない面もありますが、非財務情報の開示をどのように保証していくのかについては、会計監査のテクニカルな部分ではなく、経営のもう少し高い視座から、会計監査人と監査役等が対等な立場で議論できるのではないでしょうか。
玉置:先般、協会の関西支部で開催された中国地区・四国地区の情報交換会のテーマが正にサステナビリティでした。サステナビリティという幅広い分野の中で、監査役等の皆様が各社でどのように取り組むのかについて工夫されている現状がうかがえました。
サステナビリティについては、社会からの期待が高まっていく中で対応する幅が広く、どうしても後追いになりがちです。「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」には「ガバナンス」、「戦略」、「リスクマネジメント」、「指標と目標」という四つの観点が示されていますが、これまで監査役等は「ガバナンス」と「リスクマネジメント」の観点でサステナビリティを見てきました。監査役等として、ほかの二つの観点(「戦略」と「指標と目標」)でどのようにアプローチしていくのかについては今後の検討課題です。
塩谷:このテーマについては、サステナビリティ委員会を始めとする様々な委員会で議論しており、監査役等としてはそれぞれのディスカッションの中で、適宜、必要なコメントをするというのが日常の活動です。重きを置いているのは、非財務情報の開示に係る内部統制体制、社内の各グループにおける責任の体制に関する規程を固めることに加えて、社会の動きをしっかりと把握することです。
サステナビリティに関しては目標が常に変化いたしますので、開示の内容とタイミング、そして執行がどのように対応しているのかをしっかりと見ていくことが重要で、そのためには監査役等である我々も勉強して専門性を高めていくことが必要であり、引き続きの課題であると感じています。

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