平成28年2月18日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。当協会の活動や改正会社法施行、コーポレートガバナンス・コードの適用等を受けて 今後監査役・監査委員・監査等委員や協会に期待される役割についてのディスカッションの一部をお届けします。速記録全文につきましては、「月刊監査役」2016年4月 号(№652)をご覧ください。
〔出席者〕 <公益社団法人 日本監査役協会>
会 長 広瀬 雅行(株式会社日本取引所グループ 取締役監査委員)
副会長 三好 崇司(株式会社日立製作所 取締役監査委員長)
副会長 玉井 孝明(東京海上ホールディングス株式会社 常勤監査役)
副会長 成田 正人(ブラザー工業株式会社 常勤監査役)
副会長 石本 和之(株式会社デサント 常勤監査役)
副会長 岡田 譲治(三井物産株式会社 常勤監査役)
〔司 会〕 専務理事 永田 雅仁
協会活動の基本方針及び重点施策
広瀬:会長の広瀬雅行です。本日はよろしくお願いいたします。
まず、昨年より一連の企業統治改革が実施に移されて、監査役を取り巻く環境は大きく変化してきています。上場会社における社外取締役の選任は大きく進展し、複数名の社外取締役を選任する会社も増加しています。その結果、取締役会の議事も活性化したと言われています。
また、監査等委員会設置会社制度の導入により、機関設計を変更する会社も既に300社を超えており、取締役会で議決権を有する監査担当役員が多く誕生していると言えます。
コーポレートガバナンス・コード原則4-4.では、監査役の「役割・責務を十分に果たすために」「守備範囲を過度に狭く捉えない」積極的な監査役像を求められ、会員の皆様もそれに向けて努力されていると思われます。昨年末には、上場会社の大宗を占める3月期決算会社のコーポレート・ガバナンス報告書も出そろい、各社のガバナンスの状況も目に見えるかたちとなってきました。詳細はまだ把握できておりませんが、各社のガバナンスの在り方も各社各様で、従来に比べ多様化していると思われます。
改正会社法では、監査役が会計監査人の選解任議案の決定権を行使することが新たに定められましたが、一方で、会計不正を始めとする企業不祥事は相変わらず頻発しており、昨年末には大手の監査法人が金融庁より行政処分を受けるという事態にまで至りました。
このような様々な環境変化に見舞われる中で、監査役等の皆様がその役割責務をしっかりと果たしていただけるよう、私が当協会会長就任時に掲げた次の3つの目標を引き続き目標に据え、協会の事業を運営していきたいと思っています。
一つ目は、「企業統治をめぐる環境変化への対応」です。昨年には、監査役監査基準の改定や会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針の策定などを行いました。今年はそれらの実務への浸透を図るフェーズだと認識していますが、合わせて、監査役等を取り巻く環境の変化やその影響、そこから見えてくる課題などを的確に捉え、その分析や対応を図っていきたいと考えています。そのような活動が、2年後の見直しに向けて既に動き始めている会社法改正等、次の制度改正への準備になると思います。二つ目は、「発信力の強化」です。広報政策推進会議での検討を踏まえた積極的な広報活動を行っていきますが、報道関係者への対応に加え、各種研究会への参画や講演、執筆の機会には積極的に対応していきたいと思っています。加えて、関係団体との協力の推進、例えば監査法規委員会では、今年の研究テーマとして、「内部監査との連携の在り方の検討」を掲げており、その成果を日本内部監査協会とも協力のうえ発信していくこと、などにも取り組んでいきたいと思っています。
三つ目の目標である、「会員サービスの充実」では、研修の強化が重要だと思います。企業統治をめぐる環境変化や多様化が進展する一方、企業不祥事が頻発し、監査役等の責任を厳格に問う判例も出始めています。このような状況においても、当協会の調査によると、監査役スタッフを置いていない会社は依然半数を超え、昨年より増加する傾向さえ示しています。刻々と変化する状況に遅れることのないよう、協会として、会員である監査役等の皆様をしっかりとサポートすることが重要だと認識しています。
監査役監査基準の改定、コーポレートガバナンス・コードへの対応について
永田:それでは、会社法改正、コーポレートガバナンス・コード適用等への対応につきまして、自由にご発言いただければと思います。
まず、私から、監査役監査基準について少し意見を申し上げます。各社の対応状況について、いろいろとお話を聞いていますと、積極的な監査役像を目指して改定された条項を取り入れる会社と取り入れない会社に結構分かれているな、と感じています。今回の監査役監査基準の改定については、最初から、一律の対応ではなく、各社で実情を勘案して様々な対応になるであろうと想定していました。その一方で方向性を持たないと基準の改定はできません。今回の改定は、ある意味積極的な方向で取りまとめたものですが、その反響を見ながら今後の対応を考えていきたいと思います。その意味では、いろいろと反響があるのはいいことかと、私は思っています。
広瀬:コーポレートガバナンス・コードやベストプラクティス3)のように、それぞれが自社の置かれた状況や環境、あるいは発展の具合等を見ながら、自ら考えて決めていきましょう、という方法が広まってきたのだと思います。従来ひな型や指針等を示している協会もなかなか難しい立場になってきていると思いますが、その中で、今回、監査役監査基準に5段階のレベル分けを導入したのは、まさに画期的な対応だと私は思っています。
成田:全く同感です。我々は、5段階に分かれた表を、そのまま自社の基準にも埋め込みました。遵守しなくては善管注意義務違反に問われるのではないかと思われる条項についても、レベル分けがあるから、おそらくそういう問題には発展しないであろうという判断をしました。
当社は実は、今までは協会の策定したものとかなり内容の違う、自前の基準を持っていましたが、今回はそれを改定し、協会の基準を修正しつつ取り入れることとしました。そのため、今までは改定の際にはバージョン1.xとしていたものを、今回、バージョンを2.0とするくらいの全面的な刷新となりました。
岡田:当社においても2015年7月に協会が策定した監査役監査基準ひな型を参考に自社基準の改定を行いました。常勤監査役と監査役室でかなり議論しましたが、特に監査役の職責の範囲については、やはり「監督」に踏み込むところまでは違和感があり至っておりません。その部分に関しましては公開草案が公表されました際、当社からも意見を提出しております。最初は改定内容を自社基準に反映することに少し迷うところがありましたが、これは自社の実態に合わせて変えていくことでいいのではないかと思っています。
それから、監査役の英文の呼称についても、同じような考え方から、当社では従来の”Corporate Auditor”を使っています。私自身は、これらの点は今後も継続課題だと思っておりますが、一方では弁護士からは、あまり監査役の職責の範囲を安易に広く捉え過ぎると、何か起きた際に善管注意義務違反になるおそれがあるという意見もあり、しっかりと検討していく必要があると思っております。協会の意識は相当前衛的な感じがしているのですが、まだ我々は追いついていないと思っております。したがって、先ほど申し上げましたが、社内での監査役の認知度の向上と、加えて社会における監査役の認知度の向上も目指していきたいと、考えています。
また、コーポレートガバナンス・コードではコンプライ・オア・エクスプレイン原則が前提となっていますが、当社も含め、日本の会社や日本社会は、全てコンプライして100点満点を取ろうとするという傾向がありますが、私自身は、たとえコンプライできていなくても、できていないということを開示して、そこから取り組んでいく、克服していくプロセスを見せる、ということでもよいのではと思っています。
今後は、他社の皆さんが取り組まれたお話も伺いながら、参考にさせていただいて進めていきたいと思っています。
成田:私自身は、今回エクスプレインとなった原則について、今後改善、進歩して、コンプライとなる姿を見せておけば、文句は多分つけられないというニュアンスは信じています。
岡田:その点については不安になる気持ちもあります。アメリカにおいてSOX法が施行されたとき、我々はまずは全部満点を取るという方針で取り組みました。アメリカの監査法人からは、「満点は必ずしも最初から必要ない」、「”MW”(マテリアル・ウイークネス)があっても、それを改善したという姿を見せればよいのでは」と言われたのですが、当社はガチッと全部やりました。
コーポレートガバナンス・コードの対応についても、当社はほぼすべてコンプライとしました。1つだけコンプライしていなかったのが、取締役会の実効性評価についてですが、それについても今取り組んでいるところです。但し、私はこれからこの体制を更に深化させていくことがより重要だと思っています。
玉井:今回の監査役監査基準の改定は大改定でもあり、また改定の趣旨に書いてあるとおり、各社の事情や環境等に応じたカスタマイゼーションはできるということなので、当社内では白地で論議しました。例えば、基準の第13条では「コーポレートガバナンス・コードを踏まえた対応」となっていますが、社内で論議したところ、コーポレートガバナンス・コードは勿論大切であるものの、監査役が踏まえるべきはコーポレートガバナンス・コードだけでいいのだろうか、例えば協会の「監査役の理念」は踏まえなくていいのだろうかという議論になり、当社の基準の中では、コードとあわせて監査役の理念や行動指針も踏まえることにしています。
レベル分けについては相当論議をしましたが、結論として、私どもはレベル分けをしていません。理由は、レベル1とレベル5はともかく、レベル2からレベル4までの区別がやや微妙であることと、下級審の裁判所で監査役監査基準の規定を根拠に、監査役が善管注意義務違反に問われた例が出てきているなか、レベル2やレベル3を自ら明記することには一方でリスクもあるのではないかと考えたことからです。
また、岡田副会長がおっしゃった、監査役が監督の機能の一翼を担うという部分についてもかなり論議しましたが、当社の実情も勘案し取り入れてはいません。
石本:当社は規模的には売上高1,200億円程度の会社規模ですので、監査役スタッフの設置はなく、常勤監査役1名、非常勤社外監査役2名体制で監査業務を行っております。
今回の当社が改定した監査役監査基準に関しましては、日本監査役協会のひな型を大いに参考にさせていただきましたが、対応できていない条項もありますし、また、相談相手がいない中で通常は関西実務部会のメンバーに相談するのですが今回はできずに、一番悩みましたのが、監査役監査基準のレベル分けについての対応です。
各社の状況を聞き、皆様方もそれなりにいろいろ考えて対応されたことをお聞きして、納得いたしました。また監査役の積極的対応も考えていかねばならないとは思いますが、守りの機能も忘れてはいけないと考えます。
永田:レベル分けについては、レベルを分けてはみたものの、これが公的に通用するかどうかと言われると、確認しているわけではありません。もちろん監査法規委員会には弁護士の先生や大学の教授もいますが、彼らが、裁判所のように法的拘束力を持つような判断ができるわけではありません。
基準の前文の中にも明記しておりますが、公的機関の確認を受けたものではなく、あくまでも一つの目安であると考えていただきたいと考えています。
監査法規委員会でもいろいろな議論がありましたが、それでもやはりレベル分けをした方が、各条項について、自社の基準に採用するかしないかという判断をするときに、理解がしやすいということもあり、やはりレベル分けはしようということになりました。
広瀬:実務部会の中でも、レベル1は当たり前ですが、レベル2あるいはレベル3とは、どの辺りの内容だろう、どの辺りまでやれば我々は善管注意義務違反を問われないのだろうか、という議論は熱心にされています。自社基準を策定するに当たって、今まではそのようなガイダンスがないので、監査役監査基準の改定をそのまま取り入れるという行動パターンになってしまっていたところがあります。今回の改定によって、各条項についてレベル分けをガイドとしながら自社で判断をし、結論を出していくというプロセスを踏めるようになったということです。
永田:例えばレベル3かレベル4は、個々人により判断が異なるところもあるでしょうし、時間の経過とともに、個々の規範に対する意識も変わることはあると思います。
三好:当社は指名委員会等設置会社なので、この監査役監査基準の変更はほとんど影響がありません。会長・副会長会議での監査役監査基準の内容改定議論に加わり、監査役協会として監督機能の一翼を担い良質な経営統治体制確立のため一歩踏み出すとの意思表示と理解しました。