2021年2月5日、公益社団法人日本監査役協会の正副会長による座談会を開催いたしました。以下に一部を抜粋してご紹介いたします。速記録全文につきましては、『月刊監査役』2021年4月号(No.720)をご覧ください。
[出席者]<公益社団法人日本監査役協会>
会 長 後藤 敏文(三菱重工業株式会社 監査等委員)
副会長 富永 俊秀(パナソニック株式会社 常任監査役)
副会長 加藤 治彦(トヨタ自動車株式会社 常勤監査役)
副会長 内野 州馬(三菱商事株式会社 常勤監査役)
副会長 川島 勇(日本電気株式会社 常勤監査役)
[司 会] 専務理事大野 和人
コロナ禍における監査役等としての対応について
富永:現在、海外往査には一切行けていません。国内の往査も、できる限り対面でやろうとしていますが、基本リモートになっています。この場合何が困るかというと、現場の手触り感が全くないということです。面と向かって、相手の表情を見ながら、現場を見ながら、変化の兆候を感じる、五感で感じる、ということが全くできないということです。子会社や現地の経営トップと話をするには問題ないですが、実際の現場で何が起こっているのか把握することが困難です。
また、内部監査部門も苦労しています。リモートで対応することを前提に、事前準備を入念に行い、どうしても現地で確認する必要のある監査項目に絞って現地に出向くという手法をとっています。
この状況を踏まえて、コロナ禍における内部監査部門との連携の取り方についても、検討すべき課題があると認識しています。
当社には、経理社員制度があります。縦通しで、現地の経理責任者は、現地の社長に加えて、本社の経理責任者の二君に仕えることになっており、その人事権は本社経理責任者が持っています。内部牽制機能が働く仕組みになっており、リモート環境の中でも十分とは言い切れないまでも、執行側のディフェンスラインとして機能していると思います。
実は中国だけは例外で、現地中国・北東アジア社に中国人の監査役員を配置しており、日本国内の監査役員と同じレベルで、現地の事業場の往査を直接実施してもらっています。
加藤:当社も現場がある会社なので、従来は往査が重要な要素でしたが、現状その部分が困っています。富永さんと同じ感覚です。業務報告はリモートで行っています。
川島:従来は現場における肌間隔の情報も大事にしていて、往査先の方々と多面的にコミュニケーションをとっていたのですが、現状はそういうこともできず本当に困っています。特に海外子会社等においても、現地の人で知っている人であればオンラインのコミュニケーションでも良いのですが、現地の状況の理解が不十分な環境下において初めて会う人とのリモート監査では、個々は見えても全体は見えず暗闇の中を手探りで、非常に苦労しながら監査している状況です。
日本公認会計士協会から昨年末、リモートワーク対応における監査上の留意事項が公表されていますが、現場はそもそもリモート監査対応がそれほどスムーズに導入できていないようです。現場によっては、機密事項の関係上カメラ持込みは禁止のところもあり、うまくリモート監査対応が進んでいないところもあります。
しかしながら、リモートの監査については、機動性がある部分もあります。リモート監査対応に慣れてくれば、例えば、海外等の遠隔地における資産の実在性を容易に確認できる等、コロナ禍が落ち着いた後でも、効率的で高品質な監査につながる良い面は取り込んでいきたいと思います。
内野:コロナ前の状況ですと、当社の場合、例年国内・海外約90件の往査に行っており、内訳は、10件が国内子会社、60件が海外子会社、20件が現地法人となっています。しかし、今年度はコロナで30件となり、件数は例年の3分の1です。内訳は、国内が25件、海外が5件、すなわち国内が昨年の2.5倍となっています。これは、年度当初の監査計画に対し、海外へ行く分を国内に振り替えたということです。また、国内の25件のうち、20件は実際に現場へ行けたのですが、5件はリモートになりました。
リモート監査の場合、経営者との面談を画面越しに行っても、何らかの琴線に触れた瞬間の顔色の変化は見えない、機微なるところが見えないという印象です。
実際に往査に行くときは、現場を一周させてもらい、職員の働きぶり、働いている表情などを見て、感じるところがあったのですが、これが今は分からないのです。
後藤:それは全く同感ですね。今までは、対面で得られる情報が大きかったと思います。微妙な変化から受ける直感的なものが多かったですよね。しかし、今の状況では制限のある中、工夫してやっていくしかないでしょう。
加藤:IT活用促進における問題は以前からあり、IT活用時のリスク管理は最重要課題でした。コロナ禍でITの活用が進み、その状況の報告は受けてきましたが、IT需要が増えれば、リスクの問題の確率は上がります。質的な問題には神経を使いますし、永遠の課題です。対策が十分かどうかは常に意識しながら、完全とは言えないけれども、最善の努力をしています。この分野でのリスク管理においては、3線ディフェンスに則ってチェックすることは変わりません。情報漏えい問題はどこの企業でも最重要課題になっているため、リスク管理の点は監査役として常に力を入れて、何かあれば指摘をし、報告は受けています。
内野:ITツールを活用する場合の漏えいリスクについてはそのとおりだと思います。一方、漏えいリスクの問題以外に、ITリテラシー不足の問題もあると思います。情報漏えいリスクに対する感度も、ITリテラシー不足のなせる業ではないかと。全職員のITリテラシー向上を図らねばと痛感しており、その教育は会社として重要になっていくと思います。これについては、我が身が一番痛感しているのですが(笑)。
後藤:ITセキュリティという話がありましたが、逆に厳しくし通ぎると、仕事を進める上でのネックになりかねないという問題もあろうかと思います。
加藤:当社ではこのデジタル化に絡んで、業務の進め方改革を並行して行っています。
監査役としても、コロナ対応の一過性で終わるのではなく、今の苦しい経験の中でその成果をAfterコロナの時代に生かせるように、今プロモーションをやっているところです。その動きを我々も見ています。
川島:当社ではセキュリティビジネスを事業にしているため、情報漏えい等の事件が起きたときのレピュテーションリスクは非常に大きいので、そこは、監査役としても重点監査項目として取り組んでいます。現在のリモートワーク環境下においては、印刷の制限、データ取り出しの制約等があり、不便さはありますが、ある程度我慢は必要と考えています。
内野:ケース・スタディ委員会の研究でも、リーマンショックのような何らかの経済ショック後の不況期に不正会計が増える傾向があることが分かりました。不正会計リスクが多くなるのは不況の時期であり、子会社での予算未達、業績低迷等による不正リスクの高まりに要注意です。
富永:当社でも同じような論議をしています。実は最近、内部通報件数が減っています。コロナ禍にあって、不祥事や不正が起こっていても表に出てこないだけであって、その状況は悪化していると認識しています。皆さんのところはいかがですか。
川島:当社でも、テレワーク環境の中で、対前年比で内部通報件数が少し減っています。これは単純に人との直接的な接触が減っているということで、そういう問題が潜在化してしまっているのではないかと思います。一方、テレワーク環境下においても通報として上がってきたものについては、きちっと調べて対応しています。
内野:当社では、子会社含め通報ルートが七つあり、通報手段としてはメールが一番多く、件数はコロナ禍でも減ってはいない状況です。
一方、発生事例の内容については、リモートワークになっていることから、ハラスメント事例は減っているようです。直接対面で生じるパワハラ、セクハラは減っているようなのですが、これは対面でないから減っているだけで、潜在的には存在し続けているのだと思います。
後藤:やはりこのような事業環境下では業績面でのプレッシャーが高まりかねないので、留意が必要と考えます。
大野:業務のプロセス改革はコロナ禍が去っても進めていく、仕事のプロセス、業務改革として進めていく、ということですね。また、内部通報の件数の変化から、見えなくなったリスクはきちんと見ていきたいということですね。
今後の当協会の在り方について
内野:当協会の発信力強化についてですが、三様監査の連携強化の観点から、当協会と日本公認会計士協会及び日本内部監査協会との連携、なかんずく各協会の会長間の対話を積極的に配信し合うことも一案と思います。
後藤:現状でも、当協会を含めた三協会で定期的な会合は持っており、ざっくばらんに話し合っています。また、日頃から事務局間での連携も行っています。先日も、日本公認会計士協会と連携して、双方の会長名義で「2021年3月期決算への対応について」との声明を公表しました。これらの活動については、今後は発信という点でもっとアピールしていきたいと考えています。
富永:会員の会社の状況も様々であり、必ずしも社内で監査役等の役割について、正しく、十分な理解が得られている会社ばかりではないのが現状だと思います。それぞれの監査役等の方々が働きやすい環境をつくるために、我々として何ができるか考えたいですね。このような環境は、経営者の考え方によって大きく左右されます。それゆえに経営者の考え方次第で、監査役等がその役割をしっかり果たせるかどうかが決まると思います。マスコミ、機関投資家等から見た監査役等への期待感をより発信することによって、経営者の理解を深め、監査役等の方々が頑張れる環境づくりにつながるのではないでしょうか。
このことをもう少し意識して取り組んではどうかと思います。
加藤:監査役等の役割が法的に強化されている一方で、実態との乖離が開いている会社がある気がします。そのため、会員をどんどん取り込んで、会員全体のためのレベルアップと、対外的な啓蒙として、監査役等の役割についての理解を深めてもらえるよう周知することが重要です。監査役等の活動に理解を示している人たちを、研究者もマスコミも、どんどん取り込んで、情報発信をしてもらうのです。
川島:発信力の強化としては、広く一般向け、経営者向け、アナリスト向け等、相手を意識した発信が重要ですね。
また、会員の皆様へのサポートとして、監査役等としての経験値ごとに研修カリキュラムの工夫をして、研修体系も、個人向けにカスタマイズしてはどうかと思います。新任の人にはこれとこれが必須研修で、経験豊かな人にはこれとこれが推奨研修で、財務・会計の知見がある人にはこれとこれが推奨研修で、等々、受講するメニューの提示をその人に応じて変えられると良いと思います。個々の監査役等向けにきめ細かなサポートを展開していければ良いのではないでしょうか。
大野:会員へ、そして外部へということで、発信を広げていくということですね。