監査役インタビュー

2022年2月
株式会社アミファ 取締役(前常勤監査等委員) 蒲生 邦道さん

テーマ:
株式会社アミファにおける監査活動
―リスク・マネジメント、IPOを中心に―

蒲生邦道様は、当協会にて、監査法規委員会の委員長や、実務相談員、新任向け情報懇談会講師、監査役全国会議のパネリスト等、多方面で御活躍を頂きました。今回は、それらの活動について、幅広くお話を伺いました。

  • ※こちらでは、インタビューの一部をご紹介いたします。
  • ※全文は月刊監査役731号(2022年2月号)に掲載しております。

はじめに

―まずは蒲生様の御経歴を御紹介願います。株式会社アミファ入社前から、入社後、監査役(のちに監査等委員)就任の経緯を簡単に御紹介いただけますか。
 私は、社会人になった当初は金融機関に勤め、一通りの基本業務を経験した後、主に個人や商店、小企業との取引を担当しました。仕事は「正確・迅速・丁寧」を心がけること、社内外共に「信頼」と「信用」が大切であることなどを教わりました。この経験はその後の仕事においてもとても有意義だったと思います。
 その後、海外に石油・化学プラントを輸出する仕事に憧れ、東洋エンジニアリングに転職しました。当時の忘れられない記憶として、ニクソン大統領(米国)の金とドルの交換停止を契機として固定相場が崩れて変動相場となり、急激な円高が進み、東洋エンジニアリングも大変な影響を受けたことです。世界の政治・経済の変化と直結するグローバルな会社だというのが第一印象でした。
 20代から30代にかけては、希望して海外の受注契約に携わり、世界各国を交渉のため飛び回っていました。
 40代前半に法務部長に就任しました。そのときの印象深い思い出は、日中間の技術導入・移転契約のモデルフォーム作りに日本側の副団長として携わったことです。中国政府から日本政府(経済産業省)に依頼があったものですが、技術移転の条件をめぐり国家間の利害が絡む交渉となり、大変でした。しかし、ハードな交渉を通じて次第に相互の信頼関係が芽生えるなど今となっては楽しい経験でした。余談ですが、西安での歓迎宴で「生きているサソリ」を、目を白黒させながら食べたことも忘れられません(笑)。
 その後は、受注案件のマネジメントを部門長として担当しました。その頃は、海外の工事現場をかなり回りました。
 大きく印象に残っているのは、カントリーリスクの怖さです。イランとイラクが交戦状態にあったときで、イランで石油プラントを建設していた最中に、イラクの戦闘機数機によりいきなり工事現場が襲撃され、激しい機銃掃射とロケット弾によってプラントが炎上する事件が起きたのです。幸い死傷者は出ませんでしたが、工事を中断し、派遣していた技術者と工事業者を安全な場所に避難させました。イラン側からはすぐに工事を再開するように強い要請があり、契約履行保証金の没収問題など大紛争に発展しました。日本大使館の支援を受けながら交渉に当たり、そうこうしているうちにイラン・イラク戦争が終結したので、ようやく工事を再開することができました。実はこの話は、以前に監査役全国会議の分科会「リスク・マネジメントと監査役の役割」でお話ししたことがあるのですが、当時の監査役の皆様から大変興味を持っていただきました。「半分寝ていたが目が覚めた」という方もおられました
(笑)。
 監査役に初めて就任した当時ですが、監査役になることには当初かなり抵抗があったのです。なった後も、なかなか監査役としての気持ちが定まりませんでした。しかし、日本監査役協会(以下「協会」)の実務部会における先輩監査役からのお話や、同時期に監査役になった新任の方々との有志研究会で、次第に飲み会が中心になりましたが(笑)、交流を深める中で心も落ち着いたようで、監査役として「何か意味のあることをしたいなあ」と考えるようになりました。そこで、経営執行のときから大きな課題だと考えていた「リスク・マネジメント」の在り方を内部監査室長(技術系)の協力を得て検討することを始めました。

―アミファに入社されてからはいかがでしょうか。
 当社に入社を決めた理由は大きく四つあります。一つ目は、IPO を目指している会社であったことです。私の在籍当時の東洋エンジニアリングは、IT部門に強みを持った会社で、私はそのIT部門の分社化を提案し、経営計画部長のときに上場の指揮をしました。そのような経験から、もう一度IPOに挑戦したい気持ちがあったのです。二つ目は、社長の決断の速さです。面談の際から様々な話をざっくばらんにしてくれて、何と! 面談の途中で「もう蒲生さんに決めよう」と言ってくれたのです。感激しました。この方となら大変な上場も一緒に苦労して乗り越えられると思いました。三つ目は、「中小規模会社の監査役監査基準の手引書」作成に携わったことにより、中小企業の全く異なるビジネスに興味を持ったことです。特に、社長が「女性が好むおしゃれな雑貨作り」と話されたことに、強く好奇心を刺激されました。アミファは社員の4分の3が女性ですが、男社会のど真ん中にいた私にとって、それは真逆の現場であり、新鮮でした。女性を中心に活躍する会社をこの目で見て、サポートしたいと思ったことが四つ目の理由です。

株式会社アミファ入社時の状況について

―では続いて、御社に入社した当時の状況や、心がけていたこと等をお話しいただけますか。
 第一に心がけたことは、「従業員から信頼され、仲間として受け入れてもらうこと」です。東洋エンジニアリングでの中途入社の体験や協会での勤務経験などから、まずは、仲間として受け入れてもらうことが重要なことと考えていました。そのためには、いつも「明るく・元気」、「清潔」で「若々しく」いることですかね。まるで「標語」みたいで申し訳ありません(笑)。また、男女、年齢を問わず、誰とでも積極的にコミュニケーションをとり、どのような話や相談でもしっかりと聴くことを心がけました。これは監査役としても同じですね。話を聴いたら、解決方法を一緒になって考えることに努めました。
 次に、「上場会社に相応しい会社」となるための変革を後押しすることを心がけました。当社は、オーナー会社としてとてもしっかりとしていましたが、意思決定者は社長一人であり、上場会社となるには多くの整備と変革が必要な状況でした。私も監査役の職務にこだわり過ぎず、立場の線引きには注意しながら、必要なことは積極的に提言して実行してもらうように努めました。そのために具体的な資料も作成・提供しました。特にIPOを目指す若い会社の場合は、一歩踏み込んだ取組が必要だと思います。
 嬉しかったのは、社員から仕事や職場のことについていろいろと相談されたことです。「困ったことがあれば何でも相談してください」と言っていたのですが、ある事例について、私から直接社長に話して対応してもらったことがありました。その様子を社員が見ていたようで、それをきっかけに次々と相談が寄せられるようになりました。社員にはこれらの相談や対話を通して、「監査役」という今まで馴染みがなかった役職について、次第に理解してもらえたように思います。

監査役等としての活動について

―御社で監査役(後に監査等委員)として主に取り組まれたこと、苦労したこと等、御自由にお話しいただけますか。
 当社も上場までの道のりは決して順調だったわけではありません。上場準備及び申請と審査の段階で苦労した点についてお話しします。
 ⑴ 準備段階では、ERP(Enterprise Resources Planning)の導入と習熟には大変苦労しました。ERPの導入は、あずさ監査法人からショート・レビューで指摘された主要事項の一つですが、最初にお話ししましたとおり、市販の会計ソフトしか使ってこなかったので、販売・仕入・製造、経理を統合システムにより一貫して実施することは、会社にとって大きなチャレンジでした。これには苦労を重ねましたが、今ではかなり習熟したと思います。
 ⑵ 商品企画についても発想の転換が必要でした。一つは、アミファの世界観と多様性をいかに調和させるかでした。会社の世界観はもちろん大切ですが、余りに狭い世界観にこだわり過ぎると商品開発は広がりません。異なる世界観や多様性を、どのように取り入れていくのかを考えなければいけないと訴
えました。二つ目は、デザインの再現性の程度でした。デザイナーが起こしたデザインについて、商品における再現性を徹底して追求するわけです。アートにおいては重要です。しかし、過剰にこだわると、コストも時間もどんどんかかり、製造部門は疲弊します。商品開発においてもコストとスケジュール管理の意識が必要でした。私は、「デザインの再現性がどれくらい売行きにつながるのか」との投げかけをして議論しました。三つ目は新商品の企画数です。会社が発展していくことは、すなわち、新商品の数がどんどん増えていくことです。雇用形態にこだわらず、商品開発の人数、イラストレーターの人数を増やさなくてはいけませんし、やり方も変えなくてはいけません。中には、外注することは嫌だ、既存のサンプルを参照することは嫌だという意見もありました。社長の理解のもとに、この点について思い切った意識改革を行いました。
 ⑶ 発注管理もなかなか難物でした。イラストレーターの方は、「口頭の打合せだけでいい」と言う方が多いですし、加工業者も「契約書なんてなくても昔からやっている」と。しかし、そうした方々と、下請法に適合する契約を締結して管理しなければいけません。製造委託先は中小会社が多いので、お金を先に渡さないと仕事を引き受けてもらえません。前渡金を払うのですが、その管理にも苦労しました。
 ⑷ 品質管理の重要性を理解してもらうのにも時間がかかりました。当初は、品質に対する意識も低かったのです。上場会社になる以上、品質が悪ければ話になりません。信用問題となりますから、そこの意識を変えてもらうことにも注力しました。
 ⑸ 「女性の活躍をこの目で見て、サポートしたい」と張り切って入社したのですが、思いがけないジレンマに直面しました。まず、会社の中核を担うリーダーとなる女性社員を育成しようと考え、コミュニケーションを通じて、リーダーシップ、チームワーク、意思決定の在り方、情報の伝達と共有、リーダーに求められるコンピテンシーなどについて熱心に教育しました。その結果、彼女たちの意識が変わり成長したのは良かったのですが、より大きな舞台での活躍を夢見て、期待した人材が何人も上場大会社に転職していきました。上場大会社には、条件もそうでしょうが、自己実現できるチャンスが多いと思ったことも理由のようでした。「感謝の言葉」を言われていたのが、ある日突然、「お別れの言葉」を聞くことになるとは! 何とも残念で悲しいことでした。しかし、個人の今後の人生を考えれば、夢を持ち、それを追いかけることは大切です。私自身も、夢を追いかけて金融機関から東洋エンジニアリングに転職しましたから。社会全体での「女性活躍」のためには良いことだと割り切りました。
 ⑹ 上場申請後の審査段階で、コンプライアンス体制の組織的な整備と運用について思いがけない落とし穴がありました。業務への適用法規について可視化したとお話ししましたが、認識不足により、一部不十分だったものが見つかったのです。これについては、信頼性の回復のために、弁護士に依頼して体制の点検と指導をお願いしました。また、内部監査室長に、見直し後の法令遵守体制が適切に運用されているかどうかについて定期的な内部監査を依頼し、報告を受けて検証しました。コンプライアンスについては、決して過
信してはいけないと改めて思いました。
 ⑺ 在庫管理と棚卸しについては、最後まで苦労が絶えませんでした。何せ、扱う商品が細かく、多品種、多量ですからね。土壇場になって不備と言われても仕方ない部分が出てきて、私から監査法人に率直に相談して、その助言を受けつつ、改善に取り組みました。今では在庫管理は著しく改善されていると監査法人からも評価されています。当時、思い切って、監査法人と相談したことが良かったと思います。
 裏話ですが、棚卸しは日曜日を一日潰しての大仕事でしたので、終わった後に、毎回、同僚の監査等委員と小生の二人が、営業部、経理部、ロジスティクス部門からの参加者と共に、若手の公認会計士も北千住の居酒屋に招きました。反省の弁の後、「次は頑張るぞー」と気勢(奇声?)を上げて大いに盛り上がりました。棚卸しが上手くいくようになったのは、この夜の連携のお陰ではないかと密かに思っています(笑)。今は、コロナ禍でこのような機会がないことがとても残念です。
 ⑻ 最後となりますが、上場のために重要なことは、何と言っても「業績」と「エクイティ・ストーリー」ではないでしょうか。IPOのハードルが高いのは、これだと思います。業績が予想どおりいかない、成長シナリオを描けない、あるいは描けても実行できないことですね。
 「業績」の信頼性の裏付けには、予実管理と利益管理が肝となります。つまり、利益計画の信憑性、実現性の検証・説明ですね。これが金融商品取引所から求められます。当時、IPO直後に急激に業績が悪化したり下方修正したりする事案が相次いでありました。これには取引所がかなり神経をとがらせており、徹底した検証が求められました。
 「エクイティ・ストーリー」の裏付けには、優れた経営戦略と中期経営計画が必要ですが、これは上場会社であれば当然のことですね。
 上場できたときには、本当に嬉しかったです。経営者はもちろん、同僚の監査等委員、苦労した仲間たちと心から喜びを分かち合いました。得難い体験でした。

最後に

 以上お話ししてきましたが、私の監査役、監査等委員としての生活を振り返りますと、以前の会社の経験、現在の会社の体験、同僚である監査役、監査等委員との密接なチームワーク、そして、協会における活動に負うところが大きいとつくづく思います。監査に理解のある経営者に恵まれたことも幸運でした。協会から提供されている情報は、極めて有益で監査職務を遂行する上でとても役立っています。監査役には幾らでも勉強することがありますし、そのための方法も幾らでもあります。IPOを目指す会社に新たにチャレンジされるのも面白いと思います。
 皆様には、是非御自身の知見を広げて、より良い監査活動を追求していっていただければと存じます。

―ありがとうございました。

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