多くの会員会社におかれましては、6月の株主総会にて、新たに監査役・監査委員・監査等委員・監事の方々が就任されたことと存じます。
本号では、就任二年目を迎えられた先輩監査役として、株式会社リクルートホールディングス常勤監査役である長嶋由紀子様にインタビューを行い、新任監査役等の方々に向けて、就任一年目を振り返る形でご経験談をご披露いただくと共に、メッセージを頂戴しました。
―監査役就任の際には、どのようなことを思われましたか。
私の前任者は、財務部経験もあり、ファイナンスに関するプロフェッショナリティーを持って監査役業務を務めていました。しかし、私は経歴でお伝えした通り、事業現場の経験が長く、監査役就任の話をいただいた際には「会計についての客観的知識を今一度、勉強し直そう」と焦燥感を持ったことを覚えています。当社グループでは、現時点で海外売上高が4割を超えており、その大半はM&Aによる展開です。また今後の成長シナリオでもM&Aは欠かせない手段です。ですが、過去、自分自身が責任者として検討&推進したM & A 案件はほんの数件であり、事業モデルも限定的です。然るに、経験則では補えない知識をどう補っていくかは、就任時、喫緊の課題でした。重ねて課題だと考えたのはスタンスです。自らが事業責任者として率いる案件は、主体者シナリオでストーリーを組み立ててきましたが、監査役という立場からは、より株主目線に立った合理性や、社会的責任の側面から留意点を考えねばなりません。このスタンスの差分は1年たった今でも、都度、強制的に意識するよう努めています。
当社グループでは、退社することを「卒業」と言っています。私も、事業会社の代表取締役社長を務めた後には「卒業」を考えていました。数カ月ゆっくりした後にいくつか個人的に取り組みたいテーマに向き合ってみよう、そう漠然と思っていた頃、ちょうど監査役就任の話をいただきました。よく言われますが、当社は人材の流動性の高い会社です。私も過去に数回本気で会社を辞めようと思ったこともありましたが、結局、働き続けました。ですから、ここまできたら、最後のご奉公という気持ちで覚悟を決めた次第です。内定当時は、監査役任期が4年ということも知りませんでした。正直に申し上げますと、監査役に就任し、改めて法律の勉強をする過程で、責任の重さを再認識する感がありました。
―この一年間を振り返っての感想等をお聞かせください。
あっという間の1年でした。
監査役の役割とは、監査役自身が自己満足で「頑張った」ということではなく、執行側が「正しく頑張っている」ことを裏付けることだと思います。執行側と同じ目線&スタンスでは見ていないかと、度々振り返って注意を払ってきましたが、事業執行の妥当性をマーケットに真摯に伝えることは、やはり大変な責務だと感じます。
昨今、コーポレートガバナンス・コード等により、ガバナンスへの規制が厳しくなっていますが、それらに準拠証明をすることは、逆説的な意味で、細かい説明責任を省略することにつながると考えています。例えば、野菜の「オーガニックマーク(有機JASマーク)」などは、取得するのがとても大変です。しかし、あのマークは消費者が一目見て「これはオーガニックだと理解して安心できる証明になっています。折々の局面で、監査役が、株式市場における透明性と準拠すべきルールに執行が沿っているかを監査し、証明するのは、このオーガニックマークと同じで、その背景としては、厳しいルールを日常的に守っているということを分かりやすく示すことなのだと思います。
経済活動のグローバル化が進む中で、企業の事業も多岐にわたってきています。そのような中で、この会社はきちんと経営できているという明確な証明を付すためにも、監査役の監査プロセスがコーポレートガバナンス・コードなどで定義されていることは、非常に意味のあることだと思っています。
形だけ準拠すればよい、ということではなく、フォーマットに魂を入れて、企業の透明度を担保するために、監査役がいるのだと思います。透明度を上げれば、様々なことがオートマチックになります。会社の中でも、事業戦略の関係上機密性の高い事業分野においては別ですが、それ以外の分野においては、極力透明度を上げていくことがとても重要なことだと考えています。
―本年新たに就任された監査役等の方々に対して、メッセージをお願いいたします。
就任1年を過ぎたばかりで偉そうなことは言えませんが、私もそうだったように、ご自身の疑問を大切にすることが大事なのではないでしょうか。制度論として、「監査役は必要か」「なぜ監査等委員会設置会社制度が導入されたのか」「今の監査役制度の課題は何か」、あるいは「会計監査人の選び方の問題」など、過去から未来に向けてどう考えるか、監査役のミッションだからこそ湧いてくる疑問が大事だと思っています。ある種の自己否定も含めて、こういった疑問を持つことは、その後の監査役の職務そのものに繋がっていくのではないでしょうか。
また、日本企業にまだまだ不足しているのは、「株主目線」ではないかとも感じています。マーケットで株式を公開している以上、会社のステークホルダーは従業員、取引先だけではなく、株主も含まれている訳ですから、監査役は「株主目線」の疑問をこれまで以上に大切にしていくことが必要だと思っています。
―ありがとうございました。
長嶋さんのご略歴
1985年4月 | 株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。 |
2001年4月 | 経営スタッフユニット 人材マネジメント室エグゼクティブプランナー。 |
2004年4月 | IMC(インテグレーテッドマーケティングコミュニケーション=ブライダル、旅行、自動車等の販促領域)-DC ブライダルディビジョン ディビジョン長。 |
006年4月 | 執行役員。 |
2008年1月 | 株式会社リクルートスタッフィング 代表取締役社長。 |
2012年10月 | 株式会社リクルートホールディングス 執行役員。 |
2016年4月 | 顧問。 |
同年6月 | 常勤監査役(現任)。 |