平成13年6月6日
商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案
社団法人 日本監査役協会
法務省民事局参事官室から平成13年4月24日付にて照会された「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」(以下「中間試案」という)に対し、社団法人日本監査役協会は、以下の通り意見を述べます。なお、当協会の中間試案に対する基本的考え方については、5月10日付にて「法務省商法改正案に対する考え方」としてすでに提出済みでありますが、併せて添付いたします。
はじめに
(1) 中間試案は、会社法全般に亘り、将来の法制のあり方に関し、新たな経営環境を先取りした有意義な提案を多く含んでおり、特に、以下の点に特別の配慮をされておられることは画期的なものと理解します。
- 会社経営の透明性を高めるため、企業統治の機構及び計算・開示制度の改革を行うこと。
- 欧米からも日本企業の統治機構が理解されやすいように整理すること。
- 会社経営の機動的、迅速な意思決定を可能とし、競争力を高めるために法規制を緩和すること。
(2) ただ、今回の中間試案では新たに法規制を強化する面もあり、「企業活動は、本来、各企業の自己責任の下で自由闊達に行われるべきもの」との趣旨で考えれば、法規制は株主その他のステークホルダーの利益のために必要最小限の範囲に止めるべきであると考えます。
(3) この意見書では、当協会の目的、性格からして、中間試案のすべてに対し個別に意見を述べるということではなく、「監査に関わる事項」及び監査の対象である「取締役及び取締役会に関係する事項」を中心に意見を述べます。なお、今回中間試案で提案された「新しい形態の会社機関」(各種委員会及び執行役制度)は、一元的構造を提案しており、従前のわが国会社機関の二元的構造と制度設計が質的に異なるため、両者の是非を同一の基準で論じることは困難でありますが、「監査の品質を維持、向上させる」ためにいかなる改正が望ましいかという観点から意見を述べるものであります。(4) わが国会社制度において、取締役(会)には経営意思決定とその執行をすべて一体の経営行為としてその職務とするとともに、取締役の職務執行の監督権限をも持たせております。そして、株主より直接選任され、かつ、経営行為に関与しない、しかも独立した監査役に取締役の職務執行に対する監査を行わせ、その結果を株主に報告させる方式をとっております。
(5) 一方、アメリカにおける会社制度は一元的な制度であり、経営行為及びそのモニタリングをすべて同一の機関である取締役会に委ねております。しかしながら、近年「経営(意思決定と執行)とモニタリング(監督)」を経営者自身が行う形から次第に経営から独立した社外取締役を中心とするものに変形し、日常の経営行為は取締役会の監督下にあるオフィサーに移し、取締役会の主たる機能をモニタリングに移していく流れにあります。
(6) 中間試案では、一元的制度設計を土台に取締役会に経営(執行役の職務執行)のモニタリング機能を期待しておりますが、モニタリングの厳正・中立性を保証する要件である取締役会構成員中の社外取締役の員数や独立性の定義に触れておりません。また、取締役会議長を代表執行役(経営の最高責任者)が兼務することも可能であり、さらに「取締役及び取締役会に対する監査」については何も触れておらず、現行監査役制度から見れば、これは「自己監査」であり、「監査」の原則に反するものでありますので、現行商法下の「監査」と等質にはなり得ないと考えます。
(7) 中間試案では、監査委員会を組織する社外取締役は、取締役会で定めることとされておりますが、その選任手続(独立性確保のために取締役会で決議するに先立ち、指名委員会の指名または同意を要する等)、資質(専門性等)について明確な規定をする必要があります。これは、欧米の事例においても重要な要件となっており、監査の品質を確保するために必要なことであります。なお、現行の監査役についても同じことが言えます。
(8) 「新しい形態の会社機関」については現行制度下の概念と異なりますので、将来の混乱を避ける意味で、用語、定義等は別に明確に定めることが必要であります。
(9) 中間試案では、現行制度に代えて「新しい形態の会社機関」を選択できるとしておりますが、二者択一を選択の軸とすることは、理論的にはあり得るとしても、企業が実際に選択するには硬直的すぎると考えます。少なくとも、現在各社で採用し多様化している「日本的執行役員制」が内外に説明されうるよう、第三の選択肢を用意することが望ましいと考えます。しかし、わが国の株式会社の形態が複数あるというのは、諸外国から「わかりにくい」との批判を受けることも予想されます。
第1 主要意見
第十九 「商法特例法上の大会社による監査委員会、指名委員会及び報酬委員会制
度並びに執行役制度の導入」について
中間試案によれば、現行制度に代えて各種委員会及び執行役制度を選択できるとしておりますが、特に監査制度に関して、監査委員会では監査役制度に代替できないのみならず監査機能の独立性及び実効性はかえって低下すると思われますので、反対であります。
【理由】
(1) 当協会は、現行監査役制度は「監査役の独立性」及び「監査の実効性」において理論的に優れていると評価しております。その意味で、株主の立場から見て、「監査委員会による執行役の職務の執行の監査」では、取締役会自体に対する牽制やチェックが欠落することになります。監査委員会を組織する取締役は、業務執行者を兼任できないとされておりますが、取締役会メンバーとしては意思決定に加わりますので、「取締役会による監督機能」には「自己監査」の疑いが残ります。まして、「取締役会の監督」においては、取締役の職務執行に対する監査報告書の提出は義務づけられておりませんので、「監査機能」は制度上欠落すると言わざるを得ません。(2) また、中間試案における「新しい形態の会社機関」では、従来の「取締役及び取締役会」に加えて、「経営委員会」、「社外取締役」、並びに「各種委員会及び執行役」の法制化が予定されておりますが、それぞれにおいて、「経営意思の決定とその執行、監督」がどのように分担されるのか、必ずしも明らかでありません。また、中間試案は、「執行と監督の分離」を前提にしながら、取締役会メンバー全体の中での社外取締役の独立性や員数に触れられておりません。いずれにせよ、現行監査役制度と比較し、「監査の主体」と「監査の対象」が明確化されておらず、会社の経営及び執行全体に対する「監査」が「実効性」を伴うか、危惧されます。
(3) 社外取締役の機能として提案されているものは、監査に限れば、現行の社外監査役が十分果たしていると考えられます。
第十五 「商法特例法上の大会社についての社外取締役の選任義務」
一 社外取締役1人以上の選任を大会社に義務づけることに反対であります。
【理由】
(1) 多くの未公開会社も含めすべての大会社に社外取締役の選任を義務づける場合、社外取締役としての適格者(独立性、中立性、専門性等を備えた人材)を確保しうるか、単に形式的に法に合わせる結果として実効性を欠くことにならないか、等の問題がありますので、法律で一律に社外取締役を大会社に義務づけるべきでなく、各企業の自主性に任せるべきであります。なお、少なくとも現行法上、大会社には社外監査役を1名以上おくことが義務づけられており、社外監査役は当協会調査によれば十分機能していると思われます。さらにそれに加えて社外取締役を強制する理由は何か、社外監査役とは、機能・役割がどう異なるのか、明確ではないと考えます。(2) 社外取締役は、米国でもNYSE等証券取引所の上場基準で規定されており、大会社のみを対象とするとはいえ、法による広範な義務づけの例はありません。また、非上場会社、多様な子会社等への適用は、形骸化を招き意味もないと考えます。
(3) 社外取締役の機能として提案されているものは、監査に限れば、現行の社外監査役が十分果たしていると考えられます。
二 社外取締役の兼任禁止
三 社外取締役の責任についての適用除外には、反対であります。
【理由】
社外取締役には商法第266条第2項及び第3項を適用しないとすることは、決議に参加しながら取締役会の一員としての責任が問われない点が問題であります。